成人脳卒中者への作業療法-Occupational Therapy Interventions for Adults With Stroke-
成人脳卒中者への作業療法事例をアメリカ作業療法ジャーナルからご紹介したいと思います。根拠に基づく実践は、専門職の知識と経験、クライエントの意向を組み合わせることが不可欠です。定期的な知識のアップデートは重要ですね。
今回の事例は、45歳の男性で中大脳動脈の梗塞による左片麻痺と左半側空間無視の後遺症を負っています。介入は急性期病棟からリハビリテーション病棟へ移ったところから始まります。
評価
論文で用いている評価は、カナダ作業遂行測定(COPM)、The Fugl-Meyer Assessment(FMA)、The Catherine Bergego Scale(CBS)、The Beck Depression Inventory-II(BDI-Ⅱ)、Functional Independence Measure(FIM)です。
COPMはクライエントの作業の重要度と遂行度、満足度を評価します。このブログでは何度も出てきているお馴染みの評価ですね。(Am J Occup Therの事例報告には必ずと言っていいほど用いられています)
FMAは日本でも用いられている評価ですね。麻痺の程度を細かく評価できます。CBSに関しては、半側空間無視が日常生活にどの程度影響しているかを評価するものです。
介入選択のための根拠
今回の介入は以下の根拠から選択されています。
- 作業を基盤とした介入は入院患者の日常生活動作能力(ADL)を改善させる中等度の根拠が報告されている。
- 作業を基盤とした介入は、趣味への参加を促進する中等度から強い根拠が報告されている。
- 脳卒中者において、Visual Scanning Training (VST) は強い根拠がある。
- 運動機能障害に対して、Repetitive task training (RTP) は上肢機能やバランス、動き、活動、参加を改善する強い根拠がある。
- RTPなどの課題指向的な介入やAction Observation (AO)などの認知戦略の組み合わせは、上肢機能の改善を図る中等度の根拠がある。
介入
介入初期は、ADLにおける課題を2課題選んでもらって実施しました。認識を促すため(awareness training)に、どのくらいの時間がかかるかや介助が必要であるかを予測してもらい、課題を実施しています。課題実施後には課題の振り返りを作業療法士と共に行っています。
次のセッションでは、上肢機能の改善をクライエントの生活に必要な課題を用いて実施します。パソコンのマウスの操作をしたり、入浴や整容に必要な道具を操作する練習、カードゲームなどを行っています。
そして、ビデオテープを用いたフィードバックを行ったり、台所で料理練習を行うなどのセッションへ進んでいきます。最終的にはクライエントのパートナーにも協力してもらいながら日々の記録をつけ、主体的な自立練習の記録(活動記録)をつけることを定着させています。
結果
COPMの詳細は表に掲載されていませんが、作業の遂行度や満足度は改善したと報告されています。上肢機能やFIMは大幅に改善されています。
また、CBSによるクライエント自身と作業療法士の評価の「差」がほぼ無くなっており、awareness trainingの効果も伺えます。
個人的な感想
一昔前までは、物品を用いたトレーニングに注目が集まっていましたが、現在は実際の生活に基づいたトレーニングの有効性が示されています。
残念ながら、訪問でのリハビリに携わっていると、入院中に積み木を持つ練習ばかりをして、退院後に麻痺した手を生活で使うことのできないという方を見ることもあります。
「生活する手」ではなく、「積み木を持つためだけの手」を作り上げてしまったのは担当セラピストの責任であるように感じます。脳は良くも悪くも学習する器官なのです。
作業療法士が「活動」と「作業」の違いを認識して、作業を基盤とした作業療法を行うことが求められているように思います。